重要だが付加価値の低い仕事がアウトソースされる
「無理をしてでも」が当たり前。効率化と社内の意識改革が急務に
同社は転記作業や振込作業などのアウトソースシング業務を行っている。アウトソーシングされる業務は、重要ではあるが付加価値の低い繰返し作業が多く、1社あたり1~2時間×100社分以上と、毎月150時間以上の作業を人力で対応していた。短納期の場合も人手をかけ残業してでも、無理をしてでも対応するのが当たり前になっていた。
「この業界、お客様がそう言っているから、お客様から来る書類が遅いから、何が何でも納期までに根性で間に合わせるみたいな体育会系な部分がありまして、当社の従業員もその感覚に慣れてしまっていました。」(西原氏)
そんな中で西原氏は、同社のアウトソーシング業務にRPAを導入する意義に着目した。アウトソーシング業務はRPAと相性が良い。時代背景的にも効率化や自動化が進む中、とくにアウトソーシング業務はIT化を進めていかないと業界自体が淘汰されていくと予測される。そこで、効率化やIT化を進め、生み出した時間をより付加価値の高い仕事にシフトする時間に充てていくという構想を持ち、RPA導入プロジェクトに着手した。
「バブル崩壊以降、日本企業は合理化や効率化の意識が高まり、重要だけど付加価値の低い仕事はアウトソーシングされるようになりました。RPAについてよく調べていくと、そういった性格の仕事がRPAと相性が良いということがわかりました。そういった背景から我々のようなアウトソーシング会社やシェアードサービスという分野の会社こそが、こういうものにいち早く着手するべきだと考えました。」(西原氏)
インパクトで社内を動かす。業務標準化の工夫も
RPAデモでインパクトを与える。導入時は管理部門がベースを作成
導入時、まずは関係者を集めてRPA導入プロジェクトを立ち上げ、目的を共有するところから開始した。その際共有した目的は「業務を楽にする」と「業務を標準化する」の2つだったという。
「ITの導入で業務が楽になることは当たり前で、それに加えて業務が標準化されることが重要だと思っています。私は内部統制の仕事も担当していますが、内部統制の考え方の中に、社員が休んだ時、または辞めた時でも通常業務を遂行できる状態を整えておくということがあります。属人化が当たり前になっていると、急遽自分のわからない仕事を任されることもあります。この状況は誰でもストレスになると思います。」(西原氏)
目的を共有した上で、次に実際のRPAの画面と動きを見せ、プロジェクトメンバーとゴールイメージを共有した。
「過去の経験から、より早い段階で『こうなるよ』を見せて、インパクトを与えることが重要だと思っていました。実際ロボで実演してみせるとメンバーから『すごい』という声が上がりました。その後、『だったらあれはどうなんだろう』とか現場から声が出始めました。この状態になれば業務改革や改善は8割方成功したも同然だと思います。」(西原氏)
これ以外にも、同社では、西原氏が所属する管理部門がプロジェクトの手綱を握り、ある程度の部分までロボを作成、メンテナンスすることで現場側での作業を極限まで減らしたこともプロジェクト成功の要因だった。
入出金業務を自動化。月150時間以上の削減に成功!
作業時間が1社あたり2hから1分に。「無駄を無くす」から「無理を無くす」へ
同社ではネットバンクから入出金データをCSVで抽出し、それを加工して会計システムにインポートする作業にRPAを導入した。ネットバンクで対応できない部分は、紙データやPDFをAI-OCRを利用してCSVに変換している。
自動化により、1社あたり1~2時間かかっていた作業が、約1分で終わるようになった。人力で対応する部分もあるが、これらを含めても作業時間が30分以下になったという。クライアントは100社以上、1社で複数口座を持つクライアントもいるため、これを含めると毎月150時間以上の効率化に成功した。
「1社につき1~2時間かかっていた作業が、RPAを使うことによって約1分にまで圧縮できました。最後はそれが正しいかどうかを人が確認して、微修正をする。例えば課税対象か対象じゃないか、領収書や請求書の細かい部分等、どうしてもロボには判断がつかない部分は人がやります。ただ、その作業自体は30分もかからないので、全体を通して大幅な時間削減に繋がりました。」(西原氏)
さらに、RPAがどんなものか、何ができるのかを知ったことで、現場の従業員から改善要望や改善に関する意見が出るようになったのも大きな効果だと話す。
「やるしかないんだという固定概念を持たれてしまうと改革が進みません。我々の業界に限らず、人が減っても生産性を上げて対応しろと会社から言われれば無理してでもやるしかないと思ってしまいます。ただ、便利なITツールがあって、せっかく自社で導入しているわけですから、私からはこう使ったらこうなりませんかね、という寄り添い方で現場の方が無理をしないようにアドバイスするようなスタンスで接しています。そういう形で現場と接していたことで、こういうのはできませんかね、という意見が現場から出るようになってきました。従来の無駄を無くすという意識から、無理を無くす、という意識にシフトしたことは大きな変化だと思っています。」(西原氏)
他業務にもRPAを導入。より付加価値の高い仕事へ
年末調整や給与計算も効率化。「付加価値の高い仕事は何か?」を考える
今稼働しているロボットは⼀つだが、今後はさらなる⽣産性向上を⽬指して公⽂書のダウンロードと⼊退社⼿続きのロボ化も検討している。
現在は主に入出金作業にRPAを導入しているが、今後は年末調整や給与計算など、ベースが決まっていて情報を当てはめていく業務にもRPAを展開予定だ。効率化により新たに生み出した時間を活用し、より付加価値の高い仕事へのシフトや、シフトするための従業員のスキルアップに繋げたいと考えている。
「生み出した時間をより付加価値の高い仕事に充てるというのは自然な流れではありますが、いきなり付加価値の高い仕事へ全従業員が対応していくのも難しいです。なので、業務をシフトしていくと同時に、付加価値の高い業務に対応できるスキルを身につける時間に充てるという考えも必要だと思います。何が我々にとって付加価値が高いかは会社全体で考えていければと思っています。」(西原氏)