そもそもBPRって何?
BPRとはBusiness Process Re-engineeringの略で、直訳すると「ビジネスの過程の再編成」という意味です。業務の本来の目的に従って既存の組織や制度を見直し、プロセスの視点で職務・業務フローなどを再構築(リエンジニアリング)するという考え方です。
1993年に元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー、経営コンサルタントのジェームス・チャンピーの共著として発表された『リエンジニアリング革命』によって世界的に広まりました。
BPRを取り入れて効果を上げている企業や自治体は多く、日本の身近な例ではあいおいニッセイ同和損害保険株式会社はBPRにより2021年度には138万時間の余力を創出しています。静岡県はBPRによって平成10〜14年度に5,819事業を見直し、累計1,907億円の改善額を達成しています。
BPRと業務改善の違い
BPRと似通った考え方で、なじみ深いものに「業務改善」があります。それでは、BPRと業務改善はどのような違いがあるのでしょうか。
業務改善は、ある業務を行う上で発生している無駄を改善し効率化を図ることを指します。この際、全体の業務プロセスの状況に問題が見られないことが条件です。つまり、業務改善は業務プロセスの一部分を改善することを指すのです。
それに対し、BPRはプロセスそのものに問題があることを前提としています。そして、その上で現状の業務全体的を抜本的に再構築することを指します。
また、BPRは顧客から見て不必要なプロセスを省くことも特徴としています。例えば、ERPやRPAなどのシステム導入して一部作業をオートメーション化することも、BPRの特徴の一つです。
BPRの目的と効果
それでは、なぜ今BPRが注目されているのでしょうか。また、どんな効果が得られるのでしょうか。
なぜ注目されているのか?BPRを実施する目的
まずは、BPRが注目されている背景について解説します。
労働力不足の解消のため
ここ数年の間、業種や会社規模を問わず多くの企業で労働力不足が起こっています。この問題を解決するためには、働き方を見直して長時間労働を解消することも解決法の一つです。これを実現させるためには、プロセスの抜本的な見直しを含めた業務フローの再構築も欠かせません。
「2025年の崖」に対応するため
「2025年の崖」とは、2018年に経済産業省が発表した『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』で顕在化された問題です。現在、日本企業にはさまざまな目的で多数のシステムが導入されています。それらは事業部門ごとに構築されている、過剰なカスタマイズがなされているなどの理由で複雑化・ブラックボックス化していることが問題視されています。また、これにより全社横断的なデータ活用が難しいことも課題です。
さらに、経営者がDX化を望んでいても、上記のような既存システムの問題や業務全体の見直しが必要という理由で現場サイドの抵抗が大きいことも課題です。
これらの課題を克服できない場合、2025年以降には最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると試算されました。これが「2025年の崖」です。効率的なデータ活用を行い、事業に活かすためにもBPRが求められています。
IT化により業務フローが変化してきたため
IT技術の進化やAIやIoTなどの新技術の普及により、BPRに必要な技術をローコストで導入することが可能となりました。そのため、以前に比べて業務フローの再構築することが行いやすい環境が整っています。
BPRで得られる効果
BPRではさまざまな効果がもたらされます。まず、業務フローが見える化されることにより、無駄な部分が明らかになります。その結果生産性が向上し、労働時間の短縮やコスト削減にもつながります。
さらに、上記のことが達成できることで、従業員の満足度が向上することが期待できます。また、これにより従業員がコア業務に集中できて新たな商品やサービスを生み出し、それにより顧客の満足度も向上も見込まれます。
BPRの進め方
それでは、具体的なBPRの進め方を見ていきましょう。基本的には現状の把握を行い、分析をし、計画を策定して実行し、効果を測定する「PDCAサイクル」に近いものがあります。それでは、それぞれのステップを具体的に解説します。
目的やゴールを明確にし、業務範囲を決める
社員それぞれから改善すべき点を、トップからは企業戦略に応じた改善点をヒアリングします。この際、役職者やリーダーだけではなく、現場で実際に業務に当たっているメンバーからもヒアリングを行います。ポイントは、さまざまな立場のメンバーから改善点を収集することです。
その後、それぞれのメンバーから挙げられた改善点を話し合い、企業戦略と合致するかどうかを調整します。これにより、目的やゴールが明確なBPRを行えます。
その上で、どの業務に対してBPRを行うのか、対象業務や範囲・単位を設定します。
業務や運用フローを洗い出し、現状分析と課題抽出をする
対象となる業務や運用フローについて、現在どんな作業や業務を行っているのかを全て洗い出します。その上で、どんな課題を抱えているのかを抽出します。
実行計画の策定
洗い出した現状や課題から、改善に向けた戦略や方針を査定し、シナリオを設計します。この際にはただやみくもに計画を立てるのではなく、フレームワークを用いて実行計画を策定することが重要です。
業務において無理や無駄の排除に有効な「シックスシグマ」、企業の現状把握に役立つ「SWOT分析」、PDCAサイクルをチェックし業務改善に役立てるための「ECRS」など、改善策の選定に必要な思考の7つのパターンから考える「7つの改善手法」などさまざまなフレームワークがあります。
必要に応じて調査したり、知恵がある人の意見を取り入れたりしながら利用してください。
また、計画を策定する際には、今あるリソース(人員、ツールなど)で改善するのではなく、ツールを導入する、アウトソース化するなど包括的に検討しましょう。
その上で、具体的な実行計画のプロセスを策定します。この際に、「何が達成できたらBPRが成功したといえるのか」がわかる指標も併せて策定しましょう。
BPRの実施
BPRを実施する際に大切なことは、トップが号令をかけ、「BPRの必要性と目的、ゴール」を共有して推進することです。これにより、メンバーのマインドセットが定まり、関わる全てのメンバーが目標に向かって業務にあたることができます。
また、BPRは大掛かりなプロジェクトになるため、達成には時間がかかることが予想されます。そのため、最終的なゴール以外に短期目標も立てるとよいでしょう。そのためにも、実行計画の策定の段階で、計画をいくつかのユニットに分解し、スモールステップを重ねて目標に到達できるように構築しておく必要があります。
これにより、常に方針が逸れていないか、目的をクリアしているかを確認できます。進捗管理はもちろんのこと、方向性のずれがないかを確認できる上、メンバーのモチベーションアップにもつながります。
効果測定と評価
効果測定や評価の際には、以下のポイントを確認し、評価します。
・BPRのプロセスに問題はないか
・進捗はどうか
・(問題があった場合)何が問題か
・効果や成果はどのくらいか
・十分な効果や成果が得られなかった場合、何が問題だったか
これらを評価した上で、問題があれば修正し、再度BPRを行います。各部署や部門にも問題や評価、効果を共有し、引き続きBPRを推進します。
まとめ
企業や自治体でBPRが受け入れられている理由や推進の必要性、その方法をご理解いただけたでしょうか。通常の業務に加えてBPRを推進することは、プロジェクトの長さや複雑さを考えると容易いことではありません。
しかし、日本企業や自治体は、冒頭に掲げた諸問題を解決するために改革を進めなければならないところまで来ています。ぜひ、BPRを理解してプロジェクトを遂行し、一人ひとりが働きやすい職場を実現してください。