「働き方改革関連法」施行開始! 企業が対応すべきことまとめ

2019年4月1日から、働き方改革関連法が順次施行されます。改正範囲が多岐にわたるだけでなく、法律別、企業規模別に適用時期が異なるため、何から手をつければいいのか分からないという経営者や労務管理担当者の方も多いのではないでしょうか。今回は、制度改正の背景と概要、企業が対応しなければならないポイントを解説します。

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目次

    働き方改革関連法とは

    働き方改革関連法とは、日本の労働環境を変革するために、2019年4月1日から順次施行される法律の通称です。なぜこの法改正が実施に至ったのか、またどんな考え方に基づいて改正が行われたのかを解説します。

    法改正の経緯

    昨今、日本企業では、長時間労働の常態化過労死の発生、正規雇用と非正規雇用の不合理な待遇差など、労働環境を取り巻く問題が表面化しています。また少子高齢化により働き手が不足することで、経済が大きく停滞することも懸念されています。
    これらの課題を解決し、労働者がそれぞれの事情に応じた「多様な働き方を選択できる社会」を実現するために、2018年4月6日、労働基準法をはじめとする複数の関連法案が国会に提出されました。これらの法案は同年6月29日に成立し、7月6日に公布されました。

    働き方改革関連法の考え方

    働き方改革関連法は、柱となる3つの考え方に基づいています。

    ①働き方改革の総合的かつ継続的な推進

    働き方改革を実現するため、国として基本的な考え方を明らかにするとともに、今後も継続して指針を示していくことを表明しています。

    ②長時間労働の是正と、多様で柔軟な働き方の実現

    労働時間に関する制度の見直し、勤務間インターバル制度の普及や促進、産業医・産業保健機能の強化などを通じて、労働環境の改善を目指すこととしています。

    ③雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

    短時間労働者や有期雇用労働者が、正規雇用労働者と同等の待遇で働けるよう、不平等を是正することとしています。

    改正対象となる法律

    働き方改革関連法の成立により、改正された法律は以下の8つです。改正の前後で名称が異なるものもあります。

    • (1)労働基準法
    • (2)じん肺法
    • (3)労働施策総合推進法(旧・雇用対策法)
    • (4)労働安全衛生法
    • (5)労働者派遣法
    • (6)労働時間等設定改善法
    • (7)パートタイム・有期雇用労働法(旧・パートタイム労働法)
    • (8)労働契約法

    ※(3)、(5)、(6)、(7)は通称。

    法改正の適用時期について

    働き方改革関連法の成立による法改正には、大企業と中小企業で適用時期が異なるものがあります。
    大企業と中小企業の法律上の定義と、それぞれの適用時期を解説します。

    大企業中小企業の定義

    中小企業には法律上の定義がありますが、大企業には定めがありません。そのため中小企業の定義に当てはまらない企業が大企業に該当することになります。
    中小企業は、資本金または出資の総額と、常時使用する従業員の数によって定義されます。

    業種 資本金または出資の総額 常時使用する従業員数
    ①製造業、建設業、運輸業、
    下記②~④以外の業種
    3億円以下 300人以下
    ②卸売業 1億円以下 100人以下
    ③サービス業 5,000万円以下 100人以下
    ④小売業 5,000万円以下 50人以下

    各改正の適用時期のまとめ

    改正の対象となる法律と、その適用時期は以下の通りです。企業規模を問わず適用時期が同じものと、大企業と中小企業で適用時期が異なるものがあります。

    改正の内容 適用時期
    残業時間の上限規制 大企業:2019年4月から
    中小企業:2020年4月から
    勤務間インターバル制度の導入促進 2019年4月から
    年5日間の有給取得の義務化 2019年4月から
    割増賃金率の引き上げ 大企業:適用済み
    中小企業:2023年4月から
    労働時間の把握の義務化 2019年4月から
    フレックスタイム制の拡充 2019年4月から
    高度プロフェッショナル制度の創設 2019年4月から
    産業医の機能強化 2019年4月から
    同一労働同一賃金の原則の適用 大企業:2020年4月から
    中小企業:2021年4月から

    9つの改正内容と企業が対応すべきこと

    働き方改革関連法の成立を受け、具体的にどのような対応が必要なのでしょうか。企業が取るべき対応策、違反した場合の罰則と合わせてまとめました。

    残業時間の上限規制

    (概要)
    残業時間の上限は原則月45時間、年360時間で、臨時的な特別な事情があり労使が合意しなければこれを超えることはできません。加えて、いかなる事情があっても年720時間、複数月平均で80時間、月100時間を超える残業ができなくなります

    (違反した場合の罰則)
    半年以下の懲役または30万円以下の罰金

    (企業が取るべき対応)

    • 従業員の労働時間を正確に把握する仕組みづくり。
    • 業務効率化による残業時間の削減。

    勤務間インターバル制度の導入促進

    (概要)
    終業時刻から次の始業時刻までに十分な休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」の導入が、努力義務として促されています。

    (違反した場合の罰則)
    罰則はありません。

    (企業が取るべき対応)

    • 従業員の労働時間を正確に把握する仕組みづくり。
    • 「残業のあった翌日は始業時刻を後ろ倒しにする」などの就業規則の見直し。

    年5日間の有給取得の義務化

    (概要)
    年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、企業が希望を聞き、年次有給休暇を年5日取得させることが義務化されます。

    (違反した場合の罰則)
    従業員1人につき30万円の罰金。

    (企業が取るべき対応)

    • 労働者への希望の確認。
    • 労働者の希望を踏まえた有給の取得時期の指定。

    割増賃金率の引き上げ

    (概要)
    月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が、中小企業の場合も、大企業と同等の50%に引き上げられます。

    (違反した場合の罰則)
    6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金。

    (企業が取るべき対応)

    • 従業員の労働時間を正確に把握する仕組みづくり。
    • 割増賃金に関する賃金規則の見直し。

    労働時間の把握の義務化

    (概要)
    裁量労働制が適用される労働者や、管理監督者も含む、全ての労働者の勤務時間を適切に把握することが義務付けられます。

    (違反した場合の罰則)
    罰則はありません。

    (企業が取るべき対応)

    • 従業員の労働時間を正確に把握する仕組みづくり。

    フレックスタイム制の拡充

    (概要)
    労働時間の清算期間(総労働時間を計算する基準となる期間)の上限が、1ヵ月から3ヵ月に変更されます。これにより月をまたいだ労働時間の調整が可能となります。
    なお精算期間が1ヵ月を超える場合は、労使協定を労働基準監督署長へ届け出る必要があります。

    (違反した場合の罰則)
    30万円以下の罰金。
    ※労使協定の届け出を行わずに、1ヵ月を超える精算期間を定めた場合。

    (企業が取るべき対応)

    • 従業員の労働時間を正確に把握する仕組みづくり。
    • 労働基準監督署長へ労使協定の届け出。

    高度プロフェッショナル制度の創設

    (概要)
    高度な職業能力を有する高所得労働者を対象に、本人が希望した場合、希望に応じた自由な働き方の選択肢を用意する新しい制度です。「職務が明確に定められている」「1年間の賃金の額が1,075万円以上」などの条件を満たす場合に限り、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないことが認められます。導入にあたっては、労使委員会での過半数の賛成と、書面による本人の同意が必要です。

    (違反した場合の罰則)
    罰則はありません。

    (企業が取るべき対応)

    • 労使委員会の設置と、高度プロフェッショナル制度の導入に関する決議。
    • 労働基準監督署長への届け出。
    • 「健康管理時間の把握」「状況に応じた健康・福祉確保措置」などの実施。

    産業医の機能強化

    (概要)
    長時間労働者の状況や労働者の業務状況など、産業医が労働者の健康管理などを行うために必要な情報を提供することが義務化されます。また産業医と衛生委員会の関係が強化され、産業医から受けた勧告の内容を衛生委員会に報告することが義務化されます。

    (違反した場合の罰則)
    50万円以下の罰金。
    ※産業医の選任義務があるにも関わらず、産業医を選任しなかった場合。

    (企業が取るべき対応)

    • 労働者の勤務時間や健康状態などの情報管理。
    • 産業医とのスムーズな情報共有を実現するツールの導入。

    同一労働同一賃金の原則の適用

    (概要)
    正社員と非正規社員の間で、不合理な待遇差を設けることが禁止されます。非正規社員は、正社員との待遇差や理由などについて、事業主に説明を求めることができるようになります。

    (違反した場合の罰則)
    罰則はありません。

    (企業が取るべき対応)

    • 「同一労働同一賃金」の原則に照らし合わた賃金(基本給、賞与、各種手当)の見直し。
    • 福利厚生、教育訓練の見直し。
    • 労働者から求めがあった場合、待遇に関する説明を行う。

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