事務作業の多くは効率化できる!
業務における効率化とは、作業のムリ・ムダ・ムラを軽減し、コストダウンや売り上げ向上、業務改善などを目指すことです。限られた時間とコストの中で成果を出すには、非効率な作業を減らすことが一番の近道です。
特に事務作業における効率化とは、仕事を進めるプロセスでの「ムリ」「ムダ」「ムラ」を見つけ出し、それらを省いたり減らしたり、外部企業やツールに委託したりすることで、会社の生産性を高めることを指します。ちなみに、これら3つをなくすことを極限まで追求しているのが、「カンバン方式」でおなじみのトヨタ自動車です。
トヨタだけでなく、工場の生産ラインは同じものを大量に、また時期にあわせて産み出す必要があるため、作業標準が定義され、標準から逸脱しないために効率化が行われています。
日本企業では、効率化はすでに工場では標準的に行われているものですが、ホワイトカラーの企業ではあまり見られていません。なぜなら日本企業では、仕事は組織が大きくなる過程で従業員の創意工夫でつくられ、実行されているからです。それに伴い、それぞれの業務は地層のように業務が積み上がっています。同じようなことをするにしても、人によって微妙に考え方ややり方が異なっています。これが「ムリ」「ムダ」「ムラ」を生み、効率化を阻んでいます。
ここでいう「ムリ」「ムダ」「ムラ」とは、具体的に以下のような内容を示しています。
ムリ:能力やリソース以上に負荷がかかっている状態
例)社員に負担の大きいスケジュールを課している、人員などのリソースを切り詰めすぎている
ムダ:能力やリソースに対して負荷が下回っている状態
例)資金や時間・人材を必要以上に投下している
ムラ:ムリとムダが同時に発生し、アウトプットに偏りが生じている状態
例)適したタイミングで適したアウトプットができていない
事務作業は企業にとって欠かせないものですので、効率化したいからといって全てをなくすわけにはいきません。しかし、事務作業には単純作業も多いので、効率化しやすいといえます。
例えば、請求書や納品書の発送、データ入力や集計などは、毎月行われるものがほとんどです。データを集めて分析するなどの業務は、いつも多くの時間がかかっていることでしょう。これらは、手作業を素速く正確に行えるようになることも重要ですが、人の手で行うことには限界があります。また、人の手で行っている以上、ミスが発生するリスクを抑えることはなかなか難しいといえます。
これらを解決するのが効率化です。効率化には見直しを行うことでできるもの、既存のツールを使ってできるもの、ITなどのツールを新たに導入することでできるものなどがあります。
事務作業の効率化を図る方法としては、作業方法やフローを改善する、事務処理のためのツールを導入するなどの方法があります。これらによっていかに仕事時間や労力を減らし、効率化できるかを検討し、検討しましょう。
事務作業を効率化をした方がいい理由
それでは、ここで今一度事務作業を効率化した方がいい理由をおさらいしておきましょう。事務作業はどの企業でも毎日のように行われており、全ての働く人に関わるものであるため、さまざまな背景があります。
人材不足に対処できる
現在、日本は生産年齢人口が減少し続けています。具体的にいうと、団塊世代の大量退職など少子化による新卒入社の減少が重なり続けているのです。
実際、生産年齢人口は1995年をピークにそれ以降は減少の一途をたどっています。この状態はドラスティックな施策を実行したとしても改善は難しいフェーズに突入しているため、これからの企業は「人員が少ない中でどうにかする」ことを考えなければなりません。
人材を確保することが難しい中で、少ない人員で業務を進めていくためには、事務作業の効率化は欠かせません。そこで、ツールや仕組みを検討して効率化すれば、少ない人材でも売り上げの維持や向上が期待できます。
ワークライフバランスの充実
事務作業の効率化は、社員の満足度を高めることにもつながります。なぜなら、作業時間や負担を減らすことで、仕事をしやすい環境を構築できるからです。また、業務時間が減ることで残業時間も削減できるので、ワークライフバランスがさらに高まります。残業時間が少なくなることは、社員にとって何よりの福利厚生といえるかもしれません。
業務時間や残業時間の削減は、会社にとってはコストの削減や社員の健康を守ることにつながります。また、社員は余暇の充実や自己啓発につながるというメリットを得られます。
ワークライフバランスが向上することで、長時間労働や健康を害するリスクから解放され、社員の定着率が向上します。これにより、優秀な社員が流出することを防ぐことに貢献します。また、いわゆる「ホワイト企業」と呼ばれることは新卒社員や中途社員のリクルートにおいて会社のよさをアピールできる大きなポイントとなります。
ミスの削減
事務作業は多くの数値やデータを扱うため、ミスが発生しやすい仕事といえます。そのため、ミスが発生すると、後続の多くの作業で修正が必要になり、結果として全体の業務時間が増えてしまいます。
また、ミスが発生することは社員のストレスを高め、修正作業のために残業時間も増えてしまいますので、それぞれの結果がワークライフバランスを低下させる要素になってしまうのです。
これを防ぐために、数値の入力を含む事務作業の工程を自動化できるエクセルのマクロやRPAツールなどを導入しましょう。これらを導入すれば、事務作業の効率化だけでなくミスの削減も達成できます。そして、業務時間や残業時間も削減できるので、ワークライフバランスの向上も期待できます。
他の作業に時間を割ける
事務作業を効率化することで、これまで事務作業にかけていた時間を他の作業に当てられる点も、事務作業を効率化するメリットです。特に、クリエイティブな業務や専門性の高い業務、戦略策定など会社のコアを創造する業務に時間を割けるようになることは、会社全体の生産性を高める大きな要因となります。
単純作業や定期的に発生する事務作業が多い場合は、優先順位を決めて仕事に取り組みましょう。目的に合ったツールを導入すれば、事務作業の効率化がスムーズに行えます。
業務効率化の進め方
それでは、業務効率化を進める方法をご紹介します。業務効率化はやるべきことが多いため、やみくもに進めても成功しません。下記の通りのステップを踏んで行いましょう。
業務の可視化
業務の可視化は、業務プロセスを改善するための最初のステップと認識されています。業務を可視化することで、業務プロセスにおける問題点が見つかりやすくなります。 それだけでなく、業務の全体像が見渡せるようになったり、業務の属人化を防げるようになったりといったメリットもあります。
この2つのメリットは、いずれも業務効率化に役立ちます。 業務を可視化する方法は、まず社内や部署内の全ての業務を洗い出します。社員に自分が担当している業務を全て書き出してもらうことで、洗い出しができます。
これを経た上で、目的に併せてマップを作成することも有用です。例えばスキルマップで社員一人ひとりのスキルを可視化すれば、適切な人材育成や人材配置が行えますし、個人目標の設定や新規事業を行う際の人員アサインなどに役立ちます。また、プロセスマップで社内の業務プロセスの全体像とそれらの関係を明らかにすれば、それぞれの業務にかかる時間やコスト、スキル、人数などが明確になります。
これらを把握できるようになることは、業務効率化において大いに役に立ちます。
効率化させる業務の選定
続いて、効率化させる業務の選定を行いましょう。全ての業務を効率化させられれば理想的ですが、時間や人員は限られています。そのため、全てを効率化しようとすると、かえって非効率的になってしまうのです。 効率化させる業務を判定する基準は会社や部署によって違いますが、一般的には以下に該当する業務を効率化させるとよいでしょう。効率化すると全体に及ぼす範囲が大きいと考えられるため、このポイントを抑えられるとより効率的に改善できます。
- 明らかに「ムリ」「ムダ」「ムラ」が見られる業務
- 会社のコア業務
- 事務作業
効率化方法を検討
実施、効率化したい業務をリストアップしたら、それぞれをどんな方法で効率化するのかを検討します。効率化の方法は業務をなくす、人員を増やす、外部に委託する、ツールを導入するなどさまざまなものが考えられます。それぞれにどんな方法が最適なのかを検討し、実施しましょう。
検証や評価を行う
効率化を行って一定の期間が経過したら、必ず検証を行います。これにより、果たしてその効率化の方法は適切なのかを検証しできます。そして、うまくいっている方法はさらなる効率化を目指して実施を継続し、うまくいっていない場合はどんな理由でそうなっているのかを検証しましょう。そして、ツールを変える、人員を増やすなどの対策を検証し、再度実行します。
この一連の流れは、いわゆるPDCAと呼ばれるものです、PDCAは業務だけでなく、効率化のフローにおいても効率的なのです。PDCAサイクルは、以下の観点に基づき実行します。
- Plan:業務効率化に向けた改善案の立案する
- Do:改善案の実行する
- Check:実行した結果を踏まえた改善案の評価・分析する
- Action:評価に基づき、より高い効果を得るための改善案の立案と実行をする
業務だけでなく、業務効率化においても常にPDCAをを繰り返し、常にベストな状況で効率化ができている状態を目指しましょう。
事務作業を効率化する方法
ここからは、どのように事務作業を効率化したらよいのかに焦点を当てて、今すぐに実践できる方法を5つ紹介します。
デスク周りの整理整頓
さまざまなものを扱う事務作業は、デスク周りの整理整頓が大切です。必要なものをすぐに見つけて使えることは、効率化につながります。そのため、デスク周りの整理整頓を行い、道具を使用する際の動線を短くすることを意識しましょう。
また、誤って重要書類を紛失・廃棄してしまうことを防ぐために、事務作業をしやすい環境を構築することも効率化にとって重要なポイントです。デスクワークを効率化させる収納グッズは数多く販売されていますので、それぞれの環境にとってよいのもがあれば活用してみるのも良い方法です。
事務作業の優先順位を見極める
必要な作業に集中するためには、優先順位の見極めが大切です。上にあげた「業務効率化の進め方」にもあるように、社内や部署内で行われる全ての事務作業を洗い出し、その上で効率化を意識して作業を厳選しましょう。 優先順位の付け方は、目標や納期といったベンチマークに対して優先度の高い作業から取り組むことがポイントです。
ショートカットキーを活用する
事務のパソコン作業を効率化するには、ショートカットキーの活用がポイントです。ショートカットキーは種類が多いため、まずはMicrosoft WordやExcelといった日常の事務作業に必要なソフトウェアで使用するものから取り入れましょう。これらのソフトウェアを日常的に使用する際、少しづつコマンドをショートカットキーで実行すれば、習得できるようになるはずです。
ショートカットキーで短縮できる処理時間は一つのコマンドにつき数秒かもしれませんが、 ここで効率化を図ることで膨大な処理件数を必要とする作業などで大きな効果を発揮します。
業務を自動化する
事務職の作業には単純作業や定期的な作業があります。これは人が行うと膨大な時間がかかるだけでなく、ミスを誘発しやすいという問題があります。 そこで、エクセルのマクロやRPAツールなどを導入することで、これらの作業を自動化して効率化する方法もあります。
マクロやロボットを組めばボタン1つでこれらの作業を自動化できますので、事務作業にかかっていた時間を大幅に削減し、効率化の業務を図ることができるでしょう。
効率化に役立つおすすめツール
効率化したい事務作業が明確になったら、目的に合うツールを活用して効率化を図りましょう。
ビジネスチャット
社内外とコミュニケーションをとったり、書類をやりとりする方法としては書類郵送や電子メールといった方法があります。これらの方法のデメリットとして、郵送は書類を印刷して封入し、投函(とうかん)する手間がかかることが挙げられます。電子メールは送った人以外が確認できない、ビジネスでメールを送信するためにその都度あいさつなどを記入する習慣があり、効率を下げることなどが指摘されています。
そこで、郵送やメールに代わるコミュニケーション手法として、近年はビジネスチャットが注目されています。SlackやChatworkなどビジネスに特化したツールもありますので、社内外のコミュニケーションや書類等のやりとりを効率化したい場合に役立ちます。
勤怠管理システム
勤怠時間を管理する方法として、紙やエクセルに記入する方法があります。この方法では会社にいないと記入できない、ミスが発生しやすいなどのデメリットがあります。これらを解消するのが勤怠管理システムです。
勤務時間の打刻や給与計算ができる勤怠管理システムは、テレワークや外出先から利用できるクラウド型が人気です。集計や管理にかかる事務作業を効率化できる上、ミスも予防できるなどのメリットから、導入する企業が増加しているツールです。
クラウドストレージ
事務作業に限らず、企業は大量の書類やデータを取り扱います。これらを紙で保存することは保管場所を確保しなければならないことや会社に行かないと内容が確認できないことがデメリットとして指摘されていました。イントラネットに格納する方法では、やはり出社しないと確認できないなどのデメリットがありました。
これらを解消するためには、オンライン上でデータ共有や保存ができるクラウドストレージ(オンラインストレージとも)の利用がおすすめです。複数人で同じファイルを編集できるほか、外出先からの閲覧も可能です。ペーパーレス化により、印刷関連のコスト削減にもなるでしょう。 クラウドストレージを法人で利用する際には、セキュリティが気になる方も多いでしょう。近年はセキュリティ対策に力を入れたクラウドストレージが数多くありますので、それぞれを比較した上で自社の課題に最適なツールを見つけてください。
タスク・スケジュール管理ツール
漠然とやるべきことを把握していると、ミスや抜け漏れが発生するリスクがあります。また、手帳やメモなどの紙ツールで管理することは、タスクの追加や修正などに対応しづらい、自分以外のタスクやスケジュールが把握しづらいというデメリットがあります。そこで、これらに関してもツールを導入することをおすすめします。
タスクやスケジュールの管理ツールは、BacklogやTrelloなどがあり、タスクを可視化して管理します。緊急のタスク追加や、予定・担当者の変更にも柔軟に対応ができ、瞬時に共有できるため、事務作業の進捗確認を効率化できます。
RPAツール
パソコンで行われる作業を自動化するRPAツールでは、データ入力や転記、メールの送受信など、マニュアル通りに行う事務作業を効率化できます。RPAツールには得意な業務があり、以下のような業務を得意としています。
- 手順が決まっている業務
- 単純な定型業務
- 処理件数が膨大な業務
これらに該当する業務、例えば請求書や経費の処理、発注・納品処理、データの収集・分析業務、メールの送受信などはRPAツールに任せることができます。もちろんこれらすべてが無条件に代替できるわけではなく、あくまでも決められた手順にのっとって行う場合のみ効率化が可能なのです。
状況に応じた臨機応変な判断を要するプロセスが入っている場合、RPAで対応するのは難しくなってしまいます。 RPAツールはロボットにシナリオと呼ばれる一連の作業工程を覚えさせ、稼働することによって作業が自動化されます。このロボット作成、また修正やメンテナンスにはプログラミングの知識が必要とされています。これにより、RPAツールの導入に二の足を踏んでいる企業も多いことでしょう。
しかし、最近は作業を録画することでロボットを自動で作成できるなどプログラミングの知識がなくても利用できるRPAツールがありますし、業務改善事例集やロボット作成支援を提供しているツールもあります。RPAツールの導入により、大幅に作業時間が削減できるため、単純作業を効率化したい場合におすすめのツールです。
まとめ
今回は事務作業を効率化するメリットや方法、おすすめのツールなどをご紹介しました。事務作業を効率化することはコストやミスの削減、業務・残業時間の削減、ワークライフバランスの向上などさまざまなメリットがあることをご理解いただけましたでしょうか。
さらに、事務作業効率化の方法は、デスク周りの整理やタスクの優先順位付けといった今すぐにできる基本的なものから、エクセルのマクロやツールの活用といった事務作業ならではのティップスまでさまざまなものがあります。
さらに、これらを補い抜本的に効率化を実行できる方法として、タスクや勤怠管理、チャット、クラウドストレージ、RPAなど幅広いツールがある、という流れになっています。これらの3段階とそれぞれで行うべきことを理解して、ぜひ効率化したい事務作業に合わせて使い分けましょう。
2020年から始まった新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、テレワークやリモートワークが推奨されるようになりました。在宅で業務を行うということは、出社できないため業務効率化のためのツールを導入する追い風になったという会社も多いことでしょう。また、リモートワークは子育て中の社員や障害・病気などの事情がある社員にとっても親和性の高い働き方です。これらの社員にとって優しい働き方は、全ての社員にとって優しい働き方といえます。
なぜなら、今フルタイムで出社して働いている社員もそうできなくなる可能性があるからです。そうなった際に柔軟な働き方がでいることは、効率性を高めるだけでなく社員の幸福度も高まります。さらに、効率的に働ける・柔軟な働き方ができることは、リクルーティングの際の大きなアピールポイントとなります。
実際、株式会社DYMが2021年に就活生を対象に行ったアンケートでは、「入社の際に重視する項目はありますか?」という質問に対して、1位が「残業時間の上限削減」(27%)、2位が「男女に関わらず育児や介護と両立できる業務制度の推進」(26%)、3位が「テレワーク・リモートワークなど場所にとらわれない働き方」(24%)という結果でした。どれも効率性と柔軟性を重視しているということが見てとれます。
これらの要因から、効率化を行うことは企業の「今」だけでなく、「これから」にも大きなメリットをもたらすということが分かります。
これまでにお伝えしてきた「ツールの導入により効率化を目指す」という取り組みは、近年盛んに取り上げられる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」化そのものです。2021年に帝国データバンクが行った調査によると、DXおよびデジタル化などDX推進に向けた取り組みを実施している企業は81.8%と高水準でした。
しかし、その内容はオンライン会議設備の導入やペーパーレス化などに止まり、「既存製品・サービスの高付加価値化」(11.7%)および「新規製品・サービスの創出」(10.8%)といったDXへの本格的な取り組みを進めている企業は1割にとどまっています。
このままDX化を進められないままでは、近い未来にやってくる「2025年の崖」を乗り越えることはできません。これは、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合に想定される国際競争への遅れや我が国の経済の停滞などを指す言葉です。これにより、年間で最大12兆円の損失が予測されており、企業がDX化に取り組むことは喫急の課題なのです。
以上のようなさまざまな理由から、ツールを導入して効率化を進めることは日本の全ての企業に求められています。ぜひ今から効率化へ向けた本格的な取り組みを行いましょう。